相談者1
状況
重い障がいのある長男と自宅不動産で同居している母からの相談です。
夫は既に他界しており、長男は一人っ子のため兄弟はいません。
甥は近所に住んでおり長男のことをいつも気に掛けてくれ頼れる存在です。
最近、物忘れも多く体調も悪いことから、認知症や死亡による親なき後に一人残される長男の生活が心配です。
相続人のいない長男が亡くなった場合、残った財産はお世話になった甥にあげたいと考えています。
何もしなかった場合
母が認知症になったり、他界した場合は、母や長男の財産管理のため成年後見人を選任する必要があり、裁判所の監督下で柔軟な財産管理が行えない可能性があります。
財産の額によっては親族(甥)が成年後見人になれず、司法書士、弁護士等の専門家(親族以外の第三者)が成年後見人になる可能性があります。
障がい者である長男は、遺言を書くことができないので、長男が亡くなると、長男が亡くなった後に残っている財産は国庫に帰属してしまいます。
遺言を利用する場合
母が甥に対し、負担付遺贈(長男の面倒を看る代わりに一部の財産を甥にあげるという内容)の遺言を書きます。財産を一部あげることにより、母なき後も甥による長男への支援を期待することができます。しかし、母が生前に認知症となった場合の不安や長男が遺言を書けないため、長男が亡くなると残った財産が国庫に帰属してしまう問題はクリアできません。
民事信託・家族信託を利用した場合
所有者である母を委託者、甥を受託者、母を受益者とし、自宅と金銭を信託財産とする信託契約を締結します。
委託者と受益者が母なので、名義を受託者甥に移転しても、不動産取得税、贈与税や譲渡所得税などは発生しません。
将来母が判断能力を喪失したり、他界した場合でも、受託者である甥が単独で自宅の管理や生活費の支払等の財産管理を行うことでき、長男が施設への入所を検討することになれば、必要に応じて自宅の売却も行うことができる。
遺言書と同様に、母の後に長男が亡くなった後の財産帰属先をあらかじめ信託契約書の中で定めることもできるので、お世話になった甥を財産帰属先と定めておくことで、長男が亡くなった後の残余財産が国庫に帰属されることを回避することが可能になります。